新しい経営とは?(試作編)

1999年9月8日
堀川 哲朗


つらつら思うに、これからの経営の基本は以下の様なものになるのではないかと思います。
基本は、至ってシンプルです。

1.基本は適切な利益配分

日本には充分に技術・発想の芽が有ります。それが花開かない最大の理由は、利益の配分が適切になされていないからです。確かに現状でも、一部上場企業の労働利益分配率は、53%であり(注1)、利益の概ね半分が労働者に分配されている事になります。これはこれで、いい事なのでしょうが、問題は、その分配の不均衡にあります。

すなわち、戦後永らく続いた、高度成長に最適化した雇用制度である、終身雇用・年功序列の体制は、低成長の時代にあっては、実績と報酬とのバランスが極度に歪む原因になってしまいました。

アメリカなどでは、業界にもよりますが、実績に応じた報酬という原則に近い形がより多く取られている為、やる気と能力のある人が、実績を出し、それに応じた報酬を受け取る事で、ますますやる気と能力を増大させるという好循環が期待され、実際にそれが上手く機能して、昨今の経済成長を謳歌していると言えましょう。

そのマクロ経済的な分析の子細は他書に譲るとして、では、どうすれば、この様なダイナミズムを実際に手にする事ができるか、実際の経営という立場から以下に具体的に述べてみましょう。

2. 実際の処方箋

業種によっても違うのでしょうが、基本的に以下の原則を守るのが有効と考えます。
それはつまり、

各従業員が上げた売上利益=粗利益(売上―仕入)の半分を会社が取り、残り半分をその従業員が取る。

以上です。簡単ですね。

もっとも、それではあまりにも簡単すぎるので、以下に補足していきます。

3. 会社側の粗利益の使い道

会社は、上記で得た粗利益の半分を使って、従業員に使っていた経費以外の全ての経費を賄います。例えば、会社社屋のレンタル料もしくは減価償却費、会社備品費、商品の運送費、間接部門の経費、租税、配当などを負担します。ここでは租税・配当なども会社から出るお金ですので、大きな意味での経費としています。また、後で述べる、固定給の保証を含む各種リスクマネーも、会社の本質に関わる、とても重要な出費です。

4. 従業員側の粗利益の使い道

自分の生活費に使う事はもちろんですが、それ以外に次のような経費を負担します。
例えば、自己の福利厚生費、交通費(商務上の出張旅費を含む)、通信費など。

福利厚生は、基本的に従業員が自分でやります。もちろん、会社にそれを委託してもいいのですが、その場合は、自分が貰った報酬から会社に委託経費を支払うという形にします。もし、会社への委託が、内容と金額との兼ね合いで気に入らなければ、自分でやる事になります。
こうする事によって、会社の福利厚生事業は、極度に効率化されるでしょう。但し、厚生年金や社会保険については、制度の制約上(つまり、個人で加入できないので)、ほぼ全員が会社に委託する事になるでしょうが、逆に言うと、それ以外の福利厚生はおそらくほとんど無くなるでしょう。たいていの場合、自分でやった方が効率的だからです。ここでは市場原理が働いています。日本版401kが本格化すれば、福利厚生関係で会社の出る幕は、殆ど無くなるかも知れません。

また、交通・通信費の自己負担も効率化の一貫です。自腹を切る事により、各人は最適のコミュニケーション手段を自分で選択する事になり、結果的に交通・通信費を大幅に合理化できます。
これにより、手当て欲しさや予算消化といった理由で無駄な出張をしたり、逆に、予算が無いという理由で必要な主張ができなく事もなくなるでしょう。また、国際電話の使用が最小限に減り、その分eメールやインターネット電話に置き換わるでしょう。合理化された部分は、当然各人の報酬となって帰ってきます。

5. 給与計算の基本

上記の通り、基本的には給与は自己の生み出した付加価値(=利益)に基づいて支払われるべきです。しかし、全くの能力給という事にすると、万一、殆ど業績を残せなかった時に生活ができなくなるといった事になり兼ねません。また、皆が短期的な利益獲得に走り、長期的な観点が失われがちになるかも知れません。
そこで、生活に必要な最小限の給与は、固定給として支払います。これは、年齢や家族構成を考慮して算出します。また、能力給は、利益に比例して支払われます。これは、前述の通り、売上利益の半分が基準です。
具体的には、自己の売上利益の半分が固定給を超えない場合は、固定給が支払われます。固定給を超えた時から、売上利益の半分が自己の収入になります。
売上が一定の水準を超えない場合、固定給支払いは、会社にとって負担になりますが、それは会社に納められた利益から支払われます。このようにして、会社全体としてリスクヘッジを行ない、新規事業等に備えます。そのために会社が利益を留保していると言っても、過言ではありません。
もちろん、会社によって実状はいろいろ違うでしょうから、実際には会社の状況に従ってこれに修正を加えていきます。

6. 営業部門

営業部門は、売上、仕入、そして利益がクリアに目に見えるので、比較的シンプルです。個人もしくはチームである製品の販売(プロジェクト)に責任を持ち、その利益を会社と個人又はチームと折半します。チームの場合は、そのチームリーダーが、各チーム員の働きを評価して、その評価に応じて利益をさらに分配します。実際には、ボーナスにそれが反映されるという例が多くなるでしょう。
基本的に新規事業は個人もしくは、意気の合った者同士のチームで始まり、事業が順調に推移すれば、社内公募もしくは社外公募により、新たなメンバーを募ります。社内公募に応募する人は、現在の仕事の内容とリーダーとの関係及び利益の配分、それと将来行くであろう部門の将来性(将来期待される利益等)、リーダーのパーソナリティー等を勘案して応募する事になります。
他部門と比較して、より大きい魅力をメンバーに示せなければ、たとえ売上だけ大きくとも、メンバーはよそのチームに行ってしまうかも知れません。適切な利益配分・リーダーの魅力が直接問われます。このようにチーム間で激しい市場原理が働きます。
個人が複数のチームに所属する事は、それが実際に可能である限り、可能です。(具体的には、同一市場=ある特定の国などにおいて、本来複数のチームが担当している製品を一人で担当するなど。)
当然、その貢献にしたがって、複数チームからの利益の分配を受けられます。

7. エンジニア部門

営業は以上のように比較的シンプルですが、では、エンジニアはどうするか?
大きく次の2つの立場から考えます。

(1) 研究開発者:
研究開発者は基本的に自己が開発した技術によって収入を得ます。すなわち、自己の発明を特許登録し、もし、使用権が入れば、半分を自己の収入とし、半分を会社に提供します。この際、多額の収入を得た者は、自発的に会社に研究設備を寄贈したり、社会に還元する等の姿勢が望まれるでしょう。

(2) 生産管理者:
生産の合理化が収入源になります。すなわち、営業部門への引渡価格から、材料・人件費を含む全ての製造コストを引いたものの半分を給与として取ります。
この際、営業部門への引渡価格をどう設定するかがポイントになりますが、基本的には、もし同業他社から同様の物を仕入れた場合の価格(市場価格)が、一つの基準となるでしょう。もちろん、現状の生産性等を考慮して、修正を加えます。
市場にこれまで存在しなかった製品の場合は、営業部門と相談の上、適切な(営業にとっての)仕入価格を設定し、仕入価格から製造原価を引いたものの半分を会社に納め、半分を自分で取る事になります。この仕入価格は、その後の市場実勢、営業部門の販売実績等に基づいて、適宜修正されます。

8.間接部門

間接部門をどう評価するかは、かなり難しい問題です。
方法の一つは、同様の内容をアウトソーシングした場合の経費(=市場価格)と比較する事です。
比較して、同じ内容をより安い経費(給与含む)でやっていれば、その差額を利益とみなし、その半額を加給金(ボーナス)として還元します。

アウトソーシング出来ない部門については、会社の経費とするしかないと思いますが、常に営業・製造部門との間でコスト計算を行ない、本当にそれだけの経費が必要なのか、常に洗い直す必要があります。また、常に市場価格(事務をアウトソーシングした場合に掛かる経費)を意識し、可能な限り比較、効率化する姿勢が必要でしょう。

9.まとめ

以上を簡単にまとめれば、
(1)基本的に従業員1人1人を利益の算定単位(プロフィットセンター)とし、その粗利益の半分を従業員に渡す。従業員の行動に伴う必要経費は、基本的に従業員が負担する。会社は主にリスクマネーを負担する。
(2)常に市場価格を意識する。
という事になるでしょう。
これが、これからの時代を生き抜く経営の基本になると思います。

以上

注)1. 「日本経済新聞1999年8月14日版より」